キタオの想い
プラットフォーム
2013.10.15
以前、ある数学者から面白い話しを聞いたことがある。 SE業務を話題にする中、ふと思い出した。
私が社会人になったころ、I.T.業界では、3文字アルファベット用語が流行った。 震源地はたぶんIBMであったのだろうが、3文字アルファベット用語は、レベルが高く、高尚な気持ちにさせてくれた。 最近は、3文字どころか4文字、5文字用語と際限も節操もない。
先般、大学の教授が、盛んにICTと唱えるので、思わず 「”ICT”って何ですか?」と聞いてしまった。 「君はコンピュータの仕事をしているのに”ICT”を知らないのか!」とお叱りの言葉。 恐縮して、教授戴ける様お願いすると、ICT:Information & Communication Tecnology だと聞いて驚いた。 学問や技術は時間の経過の中で絞り込まれるべきであろうが、その示すところは、漠然、朦朧、意味不明である。 「情報」と「通信」は太古の昔の「狼煙」の時代からの定番である。 「いまだ、3文字なら何でも来い!」なのかと、言葉の空虚化に寂しさを感じた。
愚痴はさて置き、そんなアルファベット用語の中に、MIS、OR(2文字だが)などと云う用語があった。 どの様な文献や雑誌にも、お目にかからないことはなかった。 しかし、中味は同じでも今は余り使われない。 MIS:Management Information System、 OR:Operations Research である。 コンピュータ活用が普及し始めた時代、その活用の方向性を指し示すには印象的な用語であったと感じる。
冒頭の数学者は、その時、流行のORを勉強しておられ、社会モデルに数学論理や解法を適用し、その解決策の正しさを証明しようとされていた。 ORアプローチの事例としてのお話しの内容は、こうである。
「ある鉄道会社の管理者が、朝晩のラッシュが年々激しくなり、ある駅のホームと改札を繋ぐ階段や渡り廊下の幅やプラットフォームの大きさを再設計し、改造工事をしたい。」
との依頼が数人のOR技術者に届いた。 そのOR技術者は、興味ある依頼と早速分析設計に乗り出した。 依頼のあった駅舎に出向き、終日乗降客の状態を観察し、アルバイト学生に依頼して時間帯別に流れる人数をデータとして採取した。 もちろん現状の物理的規格データもである。
普通に考えれば、収集したデータを基に、ある程度の将来予測を加味し、通路の幅、階段の幅、そしてプラットフォームの延長の程度、更には各設備の耐荷重強度計算をし、新しい設計図面を鉄道会社に提案するというアプローチだろう。
しかし、あるOR技術者は、データ分析を行った結果、「改造、改修すべきではない!」と驚く提案を提出した。 これは話題取りの行為ではなく、その技術者としての真剣な解答なのである。 説明は、渡り廊下や階段の幅を拡張し、プラットフォームを延長すれば単位時間当たりの乗降客収容率は極端に改善できる。 しかし、その技術者は、全く新規に駅を設計するなら考えようもあるが、あくまでも改造改修のレベルならば各設備の大きな位置変更はままならない。 そうなると廊下や階段の流量を増やすことにより、プラットフォームの特定の場所が今以上に混雑することになり、プラットフォームに端に居る乗降客が後ろから押され、大事故に繋がりかねない。 従って、廊下階段などの部分的キャパシティ強化は、事故を招くと改造改修を否定したのである。 プラットフォームは延長出来ても幅を広げることが出来ない。 その結果、乗客は狭いプラットフォーム上で更なる密度分布の悪化を招くことになる。 要求課題の解析だけでなく駅全体をシステムとして捉えているのは素晴らしいことだと言える。
この様に、現象に対する最適解を求めることは非常に難しく、昨今のゲリラ豪雨などを考えると、土木設計に於いても、普通に考えただけでは推定できない事象があるのだと考えてしまう。
㈱キタオ 北尾隆夫